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【レビュー】プロモンテVL-17のディテールに感動した話(生地も縫製も国産とな)

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この夏の山行用に、新たにプロモンテのVL-17を購入した。ダンロップ系の軽量ラインのテントだ。「ダンロップ」を語ると、タイヤだテニスだテントだと系譜が複雑すぎるが、「プロモンテは、昔からダンロップテントを販売してきた会社を継承するHCSという会社のブランドです」という答えは、まあ間違っていないだろう。

さて本商品は1人用で底面205cmx90cmと、文字通り本当に1人サイズだ。その分、本体1190g、全てコミでも1340gと、自立式でダブルウォールのテントでは相当の軽量級である。モンベルのステラリッジと互角なので迷ったが、アマノジャクなのでこちらを選んだ(最先端米国テントとカミナドームは予算的に無理だった)。

実際、日本中の山という山はステラリッジだらけである。各地のテント場では自分のテントに帰れない難民が続出。モンベルは急遽、他人のテントと区別をつけるためにフライシートのカラーバリエーションを増強したほどだ(作り話です)。

テントの軽量化は難しいテーマだ。「とにかく軽く!」と望めば、ヘリテイジのHI-REVOなんかもある。そいつは重さ960g。ペグを入れても1キロとほんの少し、というULぶりだ。ただし、通気孔のメッシュがが固定式で、まるでツギアテのようになっていたり、ポールが直径わずか7.5mmだったりして、「極めすぎ」というきらいがあり、少し怖く感じて見送った。

重量で言えば、今やカネも技術も潤沢な米国のULテントには、もっと過激なものもある。だが、おおむねインナーテントがフルメッシュで、フライシートが横殴りの雨を想定していないなど、弱点はある。本格的な自然が山岳地帯にしか残っておらず、時に稜線で暴風雨に遭う日本とは、前提条件が違うのだ。ただしニーモが日本仕様をうたうモデル「タニ」を出しているのは素晴らしい(インポーターのイワタニ・プリムスが素晴らしいわけだが)。そのタニ1Pも、日本仕様にすることで1060gに達する。そうなるとスペック的にVL-17やステラリッジに近づいてくるわけだ。

さて、VL-17のレビューであった。山に行く時期はまだなので、試し張りしてみたところ、数々のディテールに驚かされた。このテントは、スリーブ式と吊り下げ式の折衷なのだが、畳んだ状態では交差部分の樹脂が中央をまとめていて、ポールが2本に分かれずに済む。収納時に一直線だったポールの中央部にある樹脂部品が要(カナメ)になって、X字型に開くのだ。

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その開いたポールのエンドを四隅のスリーブに収め、天頂部の金具に本体を吊るし、あとはフックでパチパチ留めるだけだ。もし写真で透明に写る樹脂部品が完全に壊れるなど最悪の事態を想定したとしても、ポールのクロス部分とテント本体の天頂部の布テープを紐で結べば支障なく使えるだろう。

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それにしても、VL-17の吊り下げフック部のこだわりはどうだ。単にパネルとパネルの間の縫い目に吊り下げフックのベルトを縫い込むのではなく、布テープで縁取りしたメッシュをパネルの縫い目と一緒に縫製している。フックを引っ張る力はフックのベルトだけでなく、布テープ、メッシュを経由して縫い目全体に分散されるという、かなり複雑な構造を採用している。その辺、ステラリッジはずっと簡素な作りだ。フックを半回転してかけるようになっているのも渋い。HCSは何十年もテントを修理してきた経験から、軽量化と強度のバランスを追求していると標榜している。単なる軽量化に走らないところに凄みがある。

なお、吊り下げ式のフックだが、ニーモのタニも、モンベルのステラリッジも、一辺あたり4か所である。このVL-17も4か所だが、地面に近い部分はスリーブ状になっておりアドバンテージがある。また、4つのフックの配置も、等間隔ではなく、天頂に近づくほど間隔を狭めていて、芸が細かいと思う。

一方、ほかの現行モデルテントでは、アライのエアライズやヘリテイジのエスパースなどがスリーブ勢だが、やはり立てやすさではフック式の方に分があると思うがどうだろう。

素材もよく吟味されている。

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メーカーは「強度的にはリップストップ生地の方がイイんだけど、フロアに使うと網目状のところのウレタンコートが剥がれそうなのがイヤで使って来なかった。だけど、最近網目状の部分の糸が十分細い生地が出てきたので、使うことにしたよ」(意訳)と説明している。写真はフロア部のポリエステルリップストップ生地(30D)だが、なるほど緻密な感じの布地だ。

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一方本体パネルは十分すぎるほど薄い(わずか10D)が、メッシュではなく強度に優れるナイロン生地だ。メッシュにしないのは日本の夏山では夜スースーして寒いという苦情につながるからだ(akanameko的には米国ブランドのフルメッシュのテントも夏山で積極的に使ってきたが、寒さは寝具で対応するか我慢した)。フライやフロアは吸水性がほとんどなく撤収や携行が軽くて楽なポリエステルを使っており、素材を使い分けている。本体パネルに一定の吸水性を持つナイロンを使うことで、結露も低減できそうだ。

カタログ写真を見て「謎の造形」と思っていた三角形はメッシュの換気口だった。

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入り口の反対側には、しっかりした大きさのベンチレーターが装備されている。虫が入らないよう当然メッシュの内筒も備えている。対角線上に通気口を設けることで換気を図る設計だ。

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メッシュパネルでないテントは、常に酸欠のリスクがある。特に寒い時、ユーザーはなんとか隙間風を避けようとする。HI-REVOのパネルがメッシュのハメ殺しで塞げないようになっているのも、ユーザーをみすみす酸欠で死なせるわけにはいかないというメーカーの誠意だ(PL法対策ともいう)。

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フライシート全部に変な出っ張りがあるのも、換気のためだ。

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驚きのディテールはDAC製9.3mmポールにもあった。ポールのつなぎ目の、細い方の端に、水色のリングが装着されているのだ。ショックコードが端面との摩擦で切れないようにする工夫としか考えられない。ショックコードが切れると、設営が面倒なだけでなく、強風で揺さぶられるなど、ふとしたはずみでつなぎ目が外れ、テントが潰れないとも限らない。先程HCSは長年の経験から商品改良を続けていると書いた。ダンロップの吊り下げ式テントは半世紀前から作り続けられているわけで、ユーザーからのクレームは無数に寄せられ、それを分析しているのだろう。

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シームシーリングも立派。縫い目が集まって力がかかる四隅まで、シームテープを適切に溶着できている。まあこの辺りの加工は最近、中国製でもちゃんとしているが。張り綱にケブラーより強度があるとされる帝人のテクノーラを使っているのも心意気を感じる。「生地も縫製も国産」と標榜しているのは伊達ではない。

そのようなわけで、日本製でこの値段のテントに、驚きのディテールが満載されているのに感心した。買ってよかったと思った。

 

では、なぜモンベルと重さも値段も同等で機能的に勝るとも劣らないダンロ、いやプロモンテが山のテント場を席巻しないのだろうか?

 

これはもう販路とか代理店網とか、素人には知れない非常に難しい問題があるのだろうが、単にユーザー目線で見ると、同社の製品は、最軽量とか新素材とか、イマイチ「飛び道具」を欠くため、下手すれば昔のままのイメージで見られているのかもしれない。私のようなオッサンはつい、「ダンロップのテントは丈夫かもしれないが、旧式で、雪山とかに行く屈強な人だけのもの」と考えていた。あの青と橙のコンビのやつを思い出すのだ。まあそのために、わざわざプロモンテブランドを分岐させたのかもしれないけど。

余談だがプロモンテのインフレータブルスリーピングマットは、1.5倍以上の値段の米国ブランドに匹敵する軽さを備えているが、店頭で激しくアピールしている感じではない。ブランド力? イメージ? とは、なかなか難しいものだ。

あと、この商品について言えば、本体青、フライシート水色という、昔の雨具みたいな色はネット映えしない。実物はそんなにやぼったくないのだが。あと、パリッと張れているように見えないカタログ写真はどうなんだろうか。

それはともかく、akanamekoは実際に買った。そして実物の出来の良さに感動した。あとは山で実使用するだけだ。またレポートしたい。